Web2.0の復習
知人経由で、「クラウドコンピューティングと中小企業」というようなタイトルで簡単なコラムを頼まれた。
とはいえ、雑誌や本を読んだり、AWSやGAE/Jを触ってはきたが、体系的に整理したことがないので、丁度いい機会と受けてみることにした。
しばらく前から、ISさんやネットワークベンダーさんに会うと、プライベート・クラウドの説明を聞く機会が多い。つい最近までASPといっていたサービスが、SaaSとして宣伝されている。なんとはなしに、違和感を覚える。
まずは、クラウド・コンピューティングの前に「Web2.0」について、ちょっと覚書を残しておこうと思う。クラウドを考える上で、Web2.0で提示されたコンセプトは無視できないからである。Web2.0という言葉が登場して、docomo2.0とか、なんとか2.0とかいうサービスが登場したのは、つい最近のことのように思える。
そういえば、手元にMookがあったなぁ、と思い、「Web2.0への道(インプレス)」を取り出してみると、2006/10の出版になっているから3年半くらい前に読んだんだろう。このMookには、Web2.0の提唱者であるティム・オライリー(Tim O'Reilly)の「What is Web2.0 ... Design Patterns and Business Models for Next Generation of Software.」(こちら)という有名な論文の全訳が掲載されている。この論文は、2005年9月30日に公開されているので、4年半前に公表されたことになる。これを読むと、2004年10月の第1回 Web2.0 Conference (このカンファレンスは、後にWeb2.0サミット、と名前を変えて、クラウドコンピューティングの発展に寄与している)の前の時点で、オライリーが提示したコンセプトの土台のほとんどが構成されていることがわかる。
当時、「Web2.0」という言葉は、キャッチコピーとしては良かったのだが、なんともとりとめのないコンセプト、という印象がぬぐえなかった。それは、「Webを取り巻く環境、ビジネスモデル、主要プレイヤーが大きく転換している」という「認識」を「なんとか、コンセプトとしてまとめよう」としていたからに他ならない。
「Webを取り巻く環境」という意味では、HWやネットワークの技術革新に後押しされて、インターネット界へ大量の「ユーザーが参加」し始めたことが挙げられる。典型的なのは、ブログが流行して、多くのユーザーが「個人的なHP」を簡単に立てて、情報を発信するようになったこと。これによって、インターネットそのものが、ひとつの巨大な知識体とみなされるようになった、ということが挙げられる。
フォークソノミーであるとか、集合知という言葉も盛んに用いられた。考えてみれば、Twitterであるとか、FaceBookのようなサービスは、こういった事象の延長線上にある。
この時期に着目された「ビジネスモデル」としては、AmazonやGoogleの「ロングテール」があった。パレートの法則に逆らう全く新しいビジネスモデルだが、これも、技術革新に後押しされてインターネットのリーチが延長されたから成り立つビジネスモデルである。
そして、なにより、インターネットの大御所たちに「Web2.0」というコンセプトを考えさせた立役者が、Googleの存在であった。当時、Googleはすでにインターネット界の主要プレイヤーの中心であって、既存のビジネスモデルの破壊者であった。
話を戻して、オライリーが、(5年半前の)2004年10月の時点で、「Web2.0の第1の原則」と呼んでいたのが、「プラットフォームとしてのWeb」であって、その他にも
- パッケージソフトではなく、サービスを提供する
- 高い拡張性とコスト効果
といったことが示されている(オライリーの論文のmeme mapを参照)。つまり、クラウド・コンピューティングの特徴とされている主要なコンセプトが、2004年10月には提示されていた、ということである。
尚、上記の「パッケージビジネスからサービスビジネスへ」は、クラウド・コンピューティングでいうSaaSを連想させる。だが、ここでいうサービスとは、Googleに代表されるインターネットの主要プレイヤーは(旧来の)パッケージ販売ではなく、情報を扱う「サービス業」として事業を営んでいることに注目するものである。この時期に、(すったもんだを繰り返してきた)「Webサービス」がRESTという形式で実現され始め、AmazonやGoogle、FlickrといったWeb2.0的企業から情報が(無料で。場合によってはアフィリエイトプログラムとして)提供され始めた。「マッシュアップ」という言葉が流行したのもこの頃だったと思う。
インターネットの商用利用は1993年に開始された。つまり、それ以前には、インターネットを使う人は、ごく限られた人(学術界、軍関係者など)だけだった。それから、たった10年での「Web2.0(Webの第2世代)」の宣言となる。このスピード感が、Webの最たる特徴であって、当然、クラウド・コンピューティングもこのスピード感と潮流の中にある。
Web2.0とクラウド・コンピューティングと、Ajaxとは切り離せないと考えるが、稿を改めることにしよう。
ああ、疲れた。