携帯電話 vs iTouch+PHS300+EMobile

携帯電話(au)を機種変更した。
今度の機械は、Kyocera W64K。ピカピカ光る機械。

近所のショップで変更したのだが、店員さんが「何をいってんだか」分からずに困ってしまった。
auの販売形式は、シンプルプラン、フルサポートプラン(これ以上、なんとかプランというのを増やしてもらっては困るのだが)と大きく分かれているが、要するに「機種を最初に買い取るか」、「機種の料金を分割払いするか」ということらしい(本当はもっと複雑なはずだが)。

自分は、決して、数字に弱くはないのだが、それでも「こっちの機種だと、シンプルプランが得です。こっちだとフルサポートプランが得です」などと言われると、「どこを見て計算すればいいのだろう」と思ってしまう。

これまで、携帯電話(デバイスそのもの)は「異常な安値」で提供されてきた印象があるので、シンプルプランで「この機械は4万円です。」と言われても、「(これだけ色々つまっていれば)安いよね」と思う。だが、やっぱり、初期費用の安い「フルサポートプラン」を選んでしまった。

契約時に「くどい位」に言われたのが、『2年間は壊さないでくださいね』ということ。
そのためのサポートプランにも加入したのだが、途中で機種を変える場合と「どれだけお金がかかってしまうか」、何度も説明された。
auとデバイスメーカーの商流(お金の流れ)は知らないが、売り手側から見れば、「お金がまとまって入ってきた方が(分割払いより)得」なのは明らか。

丁度、日経トレンディーネットに、携帯・PHSの2008年を振り返る記事が出ていたのでリンクを貼っておく(こちら)。各社ともに2007年頃から「端末に関する」価格体系を見直しているのだが、今年に入っても施策が迷走している感がある。
ただ、各社ともに、いろいろな「プラン」を設けて、「端末の価格」を適正化しようという「制度改革」が行われているのは事実と思う(ただし、iPhoneは戦略価格で導入された。これは一時的なことと思う)。

この「制度改革」は、「携帯電話(デバイス)を適正な価格で取引する」という意味で正当なもので、それによって、「機械を大事にしよう」という気持ちがコンシューマーに芽生える。
これは、エコロジー的にも、とてもいいことだ。


だが、一方で、「世界一の携帯デバイス」を作り上げた日本の携帯市場は、キャリアとデバイスメーカーの過当競争と、価格破壊によって築かれたと言えるのではないかと思う。

今日の不況下で、米国では、GoogleAppleAmazonの3社が史上最高の増収・増益を見込んでいる。
この3社は、Web2.0の体現者であって、インターネットの本質を見極めた「勝ち組」である。

日本の携帯キャリアも、「なんとか2.0」というポスターをかざしていたが、根本的に「ネットワークビジネス」の捉え方が異なっている。

Googleらは、ネットワークビジネスが、本質的に(不特定多数なアクターによって)自己増殖するものであることを知っている。
不特定多数なアクターによって、(自社が蒔いたサービスが)急速に進化することを知っている。
これは、プロプラエタリーなビジネスではない。

翻って、日本の携帯キャリアとデバイスメーカーは、(プロプラエタリーなビジネスではあるが)過当競争と価格破壊によってこれに対抗してきたと見ることはできないか?、そう思った。
そうであるとすれば、キャリアやメーカーは『誰でもが持っている最強の携帯デバイス』を「自社の強み」と本当に認識しているであろうか?


先日のログ(「Googleはすごいね」)でも触れたが、Googleの戦略は、オーガニック検索という軸をぶらさずに、サービスのシナジーを最大限に発揮することだ。無骨なGフォンの狙いは(私には)定かではないが、Androidは確実に、携帯デバイスに焦点をあてている。

Appleは、iPhoneで「成りもの入り」で携帯電話市場に参入したが、Appleの本質は、(すでにデバイスメーカーではなく)iTunesiLifeSafariを統合してサービスを形成するサービス企業である。Appleの狙いも、これらのサービスのシナジーを狙うことにある。
この点から見れば、Appleは、iPhoneというデバイスに必ずしも固執する必要はない(したがって、iPhoneをディスカウント価格で導入することにもためらいはなかったはずだ)。

しかし、iPhoneには、

  • 加速度センサー
  • ピンチなどの操作を可能にしたUI

という特筆すべき機能が搭載されている。

Wiiが、「あふれんばかりの」新しいコンセプトのゲームを実現させたように、「加速度センサー」はアプリケーションの可能性を飛躍的に向上させる。また、「こだわりに満ちたUI」はAppleの専売特許である。また、このUIによって、『操作性を損なうことなく、画面を最大限に利用できる』こともアプリケーションとしては都合がよい。

iPhoneを含む携帯電話の課題は、キャリアが設定している「通信料金の設定方式」である。
「パケット」という言葉が市民権を得て久しいが、20年前(大学在学時)には、コンピュータ・ネットワークの分野でしか登場しない、この言葉が、市民権を得るなどとは思いもしなかった。
ここで問題なのは、パケットが「利用時間ではなく、コンテンツの種類に依存する従量性である」ということ、そして、自然に考えれば、「利用時間にもほぼ比例する従量性」といえるだろう。
この結果、PC用のホームページをフルブラウズし続けることは、莫大なパケットを発生させてしまう。
(携帯に詳しい人から見れば、「パケットといってもね」というご指摘があるかもしれない)

これを考えるにつけ、ダイヤルアップでインターネットに接続していた1995年前後を思い出す。PPPは「時間に比例した従量制」サービスであった。
「つなぎっぱなしのブロードバンド」が登場してからまだ日が浅いが、あっという間にPPPは(特殊用途以外)駆逐されてしまった。

各キャリアは、ヘビーユーザーを想定した「定額パック」を持っているが、本質的な解決になっていない。

これに対して、Wi-Fiの世界には(当然、プロトコルで規定された「パケット」は存在するが)、「パケット料金」は存在しない。

そして、自分が愛用しているのは、iPhoneではなく、iTouchである。
iTouchは、良く知られているように、上記の3点の機能を持った(Wi-Fi環境下で利用できる)携帯デバイス(昔でいうPDA)。
下の写真は、iTouchとクレイドル・ポイント社のPHS300EMobileの通信デバイスの「三種の神器」。

PHS300は、EMobileのデバイスに対応したWi-Fiルーターで、暗号化通信にも対応している。
無線は、IEEE802.11gまで対応。
発売当初は、日本の販売代理店がどうとかいう話しがあったが、今では、Amazonで購入することができる(こちら。知らなかったが、車のシガーソケットから電源供給するためのアダプターも発売されている)。

EMobileのデバイスをこれに接続し、iTouchをこのアクセスポイントにつなげばよい。
サービスエリアと通信速度は、公式には、iPhoneは主要都市部で3Mbps(今後、7.2Mbpsを計画)、以外は384Kbps(softbankによるハイスピードエリアの説明はこちら)。EMobileは、主要都市部では7.2Mbps。以外では3.6Mbps(EMobileによるサービスエリアの説明はこちら)。いずれもベストエフォートであるので、一概にはいえないが、うたい文句的には、EMobileの方が速い(ただし、サービスエリアはsoftbankが広い。ただし、これも基地局との兼ね合いによる)。

これら「三種の神器」の初期投資とランニングコストは、(これも一概には言えないのだが)iPhoneと同等、もしくは、それ以下だと思う。
上の写真は(小さくて見づらいが)iTouchに付属する「マップ」アプリケーションで、測位した結果を表示している(このアプリは、測位誤差を加味して「だいたいこの辺り」というのが青い丸で表現される)。

下の写真は、これら3つを収納したところ。

縦10cm、横13cmのビニールケースに収まって、厚みは最大で4cm程度である。
筆箱よりずっと小さいし、PCを持ち歩くよりよっぽど軽い(iTouchの日本語入力に慣れる必要はあるが、「変わっていて面白い」ので自分はさほど苦にならない。そもそも、激しく打ち込む必要のあるときは、PCを持っていって、EMobileのデバイスをさせばいい)。

Appleは、発売当初の方針を変更して、iPhone、iTouch用のSDK(開発キット)を発表した。
すでに、加速度センサーを利用した「おもちゃ」がiTuneストアに転がっている。
iPhone(iTouch)の「ホーム」は米国。これらの「おもちゃ」は自己増殖を始め、幾何級数的に進化するだろう。

また、MobileMe(9,800円/年はちょっとお高いが)を経由して、自宅のPCの操作(Mac)やiTunesとの連携ができる(=データをiTouchに入れて持ち歩かなくてもいい=iTouchのディスクが必要なくなる=デバイスが安くなる)。

Appleは、iTuneストアという「サービスの核」をブラさずに畳み掛けてくる。

こういった、ムーブメントを、日本のキャリアとデバイスメーカーは正しく認識しているのだろうか。

携帯電話の価格の適正化は、まちがいなくコンシューマーを1つの機械に(Webの世界でいえば「永遠」とも言える期間)スティックさせる。折しもこの不況下で、「買い控え」ということもあるだろう。携帯の「進化速度」に『負の変化』を起こすような気がしてならない。
携帯デバイスは、無限の可能性を秘めている。それを、今、掌中にしているのはGoogleでもAppleでもない。この認識は、「重要」を通り越して「責務」であると思う。


EMobileは勝ち組になのか?という問いもあるだろう。
EMobileも基本的には携帯電話のキャリア。従量性というビジネスモデルを採用している限り、答えはNegaiveである。

かつて、ニコラス・ネグロポンテ(「being digital(邦題;ビットの時代)」の著者。MITメディアラボの初代所長)が、ハーバード・ビジネス・レビューとのインタビューで語った言葉が印象的である。

インタビューが行われたのは、2001年。時代背景としては、1999年にIEEE802.11bの規格が成立している。
彼は、11bの規格に関して、以下のように話していた。

  • カバー範囲が100mにも及ぶため、自分の家がひとつの基地局となる。
  • この範囲に住む人が自分のワイヤレスを使用したければ、自分がその人に承諾を与えれば、利用権を与えることができる。
  • 自分の家から離れた家が、また、基地局となると、その放射がまたその周辺をカバーする。
  • このようにして地域全体が802.11bでつながることになる。
  • 地域内では協定を結ぶことで、同じ周波数を相互に使用できるようになる。

また、

  • 802.11bはだれもが自主的に設置できるので、ウィルスのようにあっという間に伝播・感染していく。
  • ノートパソコンにトランシーバのカード(注;2001年当時は、PCにカードが必要だった)をいれるだけで、伝播の届くところでは携帯電話もローミングサービスも使わずにインターネットに接続できるようになる。

今、これに一番近い活動を行っているのがFONだろう。
(自宅には、まだ設置していない)

ネグロポンテは、10年近く前にweb2.0の本質を突いている。そして、Wi-Fiは、彼がいうように(自己増殖的に)浸透するだろう。

携帯電話が「電話機能だけ」になってしまったら、とても寂しいと思った。