テレビ・オン・デマンド;TV on Demand

テレビ局のサイトを見ると、オン・デマンドに(on Demand;要求に応じて)番組を視聴できる仕組みがある(「NHKオンデマンド」、「TBSオンデマンド」「フジテレビ on Demand」、「テレ朝動画」、日本テレビGyao!に委託みたいだ。)。

ビデオ・オン・デマンド(VOD)という言葉が流行ったのは、何年前なのだろうとおもってWikipediaを見てみたが書いてなかった。10年以上前に違いない。ケーブル・テレビ局(CATV)のサービスや、ホテルなどの施設内サービスとして登場したように記憶している。SMAPのメンバーが出演している「光でテレビ」というコマーシャルが流れていたのも記憶に新しい。昨年は、その一歩先を行って、米国iTunes Storeでオンデマンドなビデオレンタルが開始された。TSUTAYAさんのHPを見てみたが、「宅配レンタル」に注力しているようで、VODは提供していない(ように見える)。

話を戻すと、テレビ局のサイトにあるオン・デマンド・サービスは、

  • 見逃したときに見る
  • 有料サービスである
  • 番組が網羅されていない
  • 提供期間が短い

と特徴付けられるように思える。

ここで「光でテレビなんでしょ?? なんで、インターネット(光)でオン・デマンドなの??」と思ってしまう。これは、要するに「光でテレビ」=「光通信をつかってプロバイダーがCATV業界に進出した」ということ。なので、通信事業主が広告を打っている。OCNの「光テレビ」のHPページを見ると、しっかりVODも用意されている。完全にCATV業をやっていることがわかりますね。
インターネットのオン・デマンドはHTTPだが、光テレビやCATVは伝送方式が違うから(こちらのHPが分かりやすい)、技術的な立場から「テレビ局のオン・デマンドと、光テレビは全く別もの」と定義されてしまっている。また、有料化されていることから、地上波放送とオン・デマンド・サービスでは、テレビ局側の収益モデルも別ものとされてしまっている(地上波放送は広告料、オン・デマンドは利用料収入をベースにしている)と推測される。たとえば、日本テレビの昨年春のプレスリリースをみると、明示的に「放送外収入の獲得」と書かれている。

この分野は、通信業者、レンタル業者、テレビ局(テレビ・コンテンツの著作権保有者)、広告主、映画配給元(ビデオ・コンテンツの主たる著作権保有者)がたくさん介在しているので分かりにくい。

VODに関していえば、米国では、通信業者、映画配給元を巻き込んで、スティーブ・ジョブズが、全ての仕組みをiTunes Storeに入れ込んでしまった(と同時に、iTunes Storeがビデオ・レンタル業界に進出した)。とても、シンプルだ。発表時に、この神がかり的な交渉力に「こういう人をカリスマっていうんだな」と感動してしまった。iTunesを見ると「テレビ」というライブラリがあるが、これはTV Showsを販売する仕組み(日本のiTune Storeは未対応)。このサービスは、日本のオン・デマンド・サービスと同じなので、次は「いつ、テレビ業界」を束ねてしまうのだろう(iTunesからテレビを流してしまうのだろう)と興味津々。「ラジオ」の方は着実に進んでいる。

テレビ・オン・デマンドのサービスとしては、Gyao!があるが、網羅性という意味で完全ではない。

話がVODにそれて来てしまったが、日本のテレビ・オン・デマンド場合は、

  • テレビ局はHTTP(+Flash)をつかってオン・デマンドサービスを提供。
  • 通信業者とTVメーカーは、IP(v6)をつかってCATV業界に進出。
  • Gyao!といったポータルサイトは存在するが、番組を網羅できていない。

と、まったくの物別れの構図になっている。これを思うにつけ、

テレビ局が、直接、on Demandに番組を供給すればいいのに

と思ってしまう。これは、

  • 無料
  • 番組が全て網羅されている

という条件の下で、必要なときにピックアップして番組を見られるサービスを意味している。このサービスは、地上波放送(アナログ、地デジ)や、TVというデバイスを否定するものではなく、補完するものと位置づけるのがいいだろう。補完するものとはいえ、「網羅性」は重要なファクターである。そのために、著作権保有するテレビ局が提供元となる。

さて、視聴形態であるが、経済誌(たとえば、「東洋経済誌」の2009/9/26号のpp54-55)などによれば、リーマンショック後、テレビ局を含むマスコミの広告料収入が大きく落ち込んでいると書いてある。この反面、Web広告のマーケットは広がって、Googleを代表とする企業が高収益を上げている。後者は、「Webの利用者が増えていること」、「Web広告を出す企業の裾野が広がり、ロングテールの効果が現れていること」を意味している。したがって、上のテレビ・オン・デマンドも、(Gyao!のように)Webで見られるようにするべきと思う。
Webで見られるようにするだけで、

  • 検索エンジンの結果から番組を見る人が増える。(Gyao!Yahoo! Japanのサービス)
  • Webからの閲覧回数により、番組の視聴数を確実にカウントできる。(視聴率の測定が不要になる)
  • Webを介在させた広告料収益を得るチャンスがある。

といったメリットがある。NHKのドキュメンタリー番組などは「資料性」が高いので、Webからビデオを流すことによる利用者のメリットも大きい。
そして、一定期間、番組を公開しておいてくれれば、とても助かってしまう。見逃してしまうからという理由で、録画をする必要もなくなる。「TVを見逃したくないから」という理由で、何かをキャンセルすることもなくなる。チャンネルの取り合いも起らない。

このためには、テレビ局は、収益モデルを地上波とオンデ・マンド・サービスで統一しなければならない。

「このログに、何故、クラウド・コンピューティングというタグがついているの?」というのは、このテレビ・オン・デマンドのインフラが整いつつあると思っているからである。

テレビ局が、オンプレミスなサーバー(もしくは、ホスティング)で、テレビ・オン・デマンドを提供するには、莫大なコストがかかる。大容量のストリームを流すには、ハードディスク(HDD)といった機械類と共に、広帯域なバックボーンが必要になる。その上、朝・晩、長期休暇といった「みんながテレビを見る時間」には、アクセスが殺到する可能性があり、大規模なスケール・アウト構成をとらなければ、これに耐えられない。
Amazonとか、Googleクラウドが、このリクエストに耐えられるかは分からないが、オンプレミスに持つよりは、はるかに良い環境を安く提供してくれると思う。テレビは社会インフラとしての公共性が高いので、クラウドSLAが重要な課題になるが、テレビのオン・デマンド化を梃子にしてSLAの標準(雛形)が定まるかもしれない。
先に「一定期間、番組を公開してくれれば」と書いたが、HDDの進化が速いのはよく知られている。デバイス界のハツカネズミといっていい。有名なC.クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」も、(この速い進化速度ゆえに)HDDの進化に関する研究を基礎としている。そして、クラウドを使えば、このメリットを最大限に活用できる。10年分位のアーカイブが公開できるかもしれない。テレビ局の10年分のアーカイブから、直接オンデマンドで番組を見られることができれば、利用者の生活スタイルが変わってしまうかもしれない。
たとえば、携帯電話に「地デジ」がついているのは、「テレビ番組が一方的に配信される」ため。この理由で、利用者は「地デジ」携帯を必要としている。うっかり録画を忘れても、地デジで見ることができる。テレビ・オン・デマンドが実現すれば、今の利用形態は不要になる。また、テレビとPC、ビデオ(録画)が完全に融合してしまえば、住環境も変わってしまうだろう。

モーバイル・ブロードバンド、携帯端末(ネットブックスマートフォン)、HTML5データ形式としてFLVにたよる必要がなくなる)、そして、クラウドコンピューティングテレビ・オン・デマンドも「ready to go」と思う。当然、Appleの視野には入ってるだろうだから、(もっとスマートな形で)あっさりと片付けてしまうかもしれない。カリスマ性は天与の才に他ならない。