プライベートクラウドとレンタルサーバー

ここまで、web2.0を起点にして、クラウドコンピューティング成立の背景を、主に技術的側面から見てきた。
ソフトウェア、ハードウェア、ネットワークの発展・トレンドを時系列的に見ることで、クラウドコンピューティングの成立と特徴が、より正確に理解できると考えるためである。

今回のログでは、クラウドに類似したサービスであるプライベート・クラウドレンタル・サーバーASPについて考えてみたい。
クラウド成立の流れを追ってみると、現在、GoogleAmazonの提供するクラウドが、これらのサービスと本質的に異なったものであることが理解できる。


最近、プライベート・クラウドという言葉を耳にする。
自分の周辺では、主に日系の大手コンピューターメーカーとシステムインテグレータが、このサービスに乗り出している。

以前、このブログに「クラウドとガバナンス」というログを書いたことがあるが、プライベート・クラウドと呼ばれるサービスのほとんどは、「仮想化技術を用いたマルチテナント型のホスティングサービス」と言ってよいと思う。

XenVM Ware ESX(IBMの有償ソフトウェア)といったハイパーバイザー型の仮想化ソフトウェアは、どこの企業でも活用することができる。システム・インテグレータ、ハードベンダーでなくては利用できないソフトウェアではない。特に、Xenオープンソース・ソフトウェアのためにライセンスフィーがないので、現在配布されているほとんどのLinuxディストリビューションにバンドルされている。個人宅の機械でも設定可能である。

現に、自分も2007年、SLES10(Suse Linux Enterprise Server 10)に、バンドルされたXen3.0(Xenは3.0から旧来の準仮想化から完全仮想化をサポートするようになっていたが、その時点ですでにWindowsサーバーをゲストOSとして利用できる状態にはなっていた)で、会社のサーバー統合を行ったことがある。先のログで、仮想化の本来的な目的は、HWリソースの有効活用と書いたが、このときの稟議書にもコスト削減をうたった。

だが、コストを削減するためには、適正なリソース配分ができなくてはならない。ファイルサーバーのCPUはほとんど眠っているとか、データベースサーバーはメモリー食いだから、これらを1つのマシンにのせて、具体的にどうHWリソースを割り振るのか、ということである。これができなければ、結局は「大きなマシン」を購入することになって、コスト削減にならない。

先のログで、プロビジョニングについて触れたが、願わくば、複数用意したハイパーバイザー(リソースプール)の垣根を越えて、自動的にリソース割り当てができることが望ましい。そうできれば、機械の故障時にゲストOS(実際にサービスを提供するOS)を逃がしたり、負荷があがった場合に、自動的に多くのリソースを割り当てることができる。
GoogleAmazonのデータセンターでは、何千、何万のサーバーが協調動作していると書いたが、これらの企業のデータセンター内部には、まさにこのような機構が仕掛けられている
そうせねば、彼らの本業のためのリクエストに耐えられない、つまり、商売ができないからである。

私見であるが、仮想化技術で、「このような仕掛けを準備するコストを正当化する」には、数百台規模のサーバー群が必要である。リソースプールという「余剰」にかかる費用、自律的なプロビジョニングにかかる費用は、サービス単価に配賦されるわけだから、規模の経済が働く

Amazonは、これまで20億ドル以上の投資を行っていると聞くし、GoogleはHP、DellIBMに次ぐ世界で4番目のコンピュータメーカーといわれるほど、Linuxを搭載した自作PCでサービスを提供している。
これだけの規模に対抗して、1ベンダーの提供するプライベートクラウドが、価格面で優位にたてるはずがないのは自明である。
その上、Amazonも、googleも、クラウドが本業ではないAmazonに関していえば、自社の余剰リソースを有効活用するビジネスとして、クラウドを提供しているにすぎない。

最近、ストレージベンダーのEMC、ネットワーク機器のCisco、仮想化ソフトウェアのVMWare合弁会社を設立した(記事)。
記事を読む限り、プライベートクラウドの市場を狙うようだ。
3社ともに、ビッグネーム(VM WareはIBM傘下)であるから、「本格的的なデータセンター」を構成するはずである。ビジネスの動向が気になるが、「有償ソフトウェアとハードウェアベンダーが本業で行うビジネス」であるから、相当の大企業でなければ利用する機会はないと思われる。

日系のシステム・インテグレータの中には、昔からあるデータセンター1つでプライベートクラウドを提供する、という会社もあるし、古いデータセンターの他にもう1か所設立予定、とおっしゃるところもある。狭い空には雲は発生しない


それでは、「なぜ、プライベートクラウドなどというビジネスが成立するのか」といえば、多くの企業が「データが具体的にどこに置かれているのか」、「勝手にのぞき見されるのでないか」ということを気にかけるためである
たしかに、GoogleGmailを検索して、それに合致する広告を表示している。
社会の公器である企業は、法的な規制(個人情報保護法、米国愛国者法など)への配慮を怠ってはならない。
Googleは米国政府の要請があった場合、保有する情報を政府に提供しなければならない。
(上の事実は、クラウドを否定する際によく引き合いに出されるが、日本においても、警察など当局の要請があれば、データセンターを含む企業は情報を提供する義務がある)

しかしながら、クラウドが、プライベートという過渡期を経て、パブリックに移行するのは、必然であると思われる


それでは、レンタルサーバーはどうであろうか?
国内には、とても廉価なレンタルサーバーがあって、自分もとても重宝している。(現時点で3つも契約している)

クラウドとの決定的な違いは、データセンターの規模と可用性である。
廉価なレンタルサーバーの中には、センター(建物)の法定点検に合わせて、サービスが停止してしまうところもある。
また、扱えるデータのサイズも小さく設定されていることが多いし、データの(物理的な意味での)完全性を保証しないので、自分でバックアップをとらなくてはならない。
超廉価なレンタルサーバーに中には、「国内に担当者が数名いるだけ」という怪しげなところも存在する。

ただ、簡単なスクリプトが実行できる環境(PHPRubyPerlは大抵実行できる)、Webメイルの環境、ブログ環境とった機能をAll in Oneで提供してくれているので、簡単なHPを制作、公開するのであれば、コストパフォーマンスが非常に高い
国内にサーバーが設置されていれば、レスポンス速度も確保できる。
国内に主要なクラウドプレイヤーがいない現在、中小企業や個人が利用する価値は高いが、クラウドの脅威にさらされているのは間違いない。

レンタルサーバーは中小企業や個人向けであるが、いずれもクラウドへ移行していくと思われる。


さて、かつてASPと呼ばれていたサービスが、SaaSと呼ばれているのを目にすることがある。
個人的に違和感があるのは、表面的にはSaaS的ではあるのだが、バックエンドのインフラに大きな違いがあると思われる場合が多いからである。
SaaSクラウドの一形態であって、ここまでの数稿のログで述べてきたようにバックエンドには、大規模、かつ堅牢なインフラが存在する。
だが、サービス基盤をクラウドに移すことは、さほど技術的に難しいことではない。

多くのASPが、クラウドに移行しつつあると考えるべきかと思う。