サプライ・チェーン・マネージメントと在庫削減

本日は、過去に書いたブログからの再掲です。原著は2006/9/17に別のブログに掲載していたものです。

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先日、久しぶりに(数年前まで生産管理システムを担当していた)製造現場に行ってきました。
私が、生産管理のカスタムシステムを担当していたのは2年位前までですが、最後の数年間は「在庫削減プロジェクト一筋」といった感じで、基幹システムの根幹部分を年に何回もリプレイスしていました。

何年か前に、製造業で「SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)」という言葉が、大変流行りました。
最近はあまり聞かないようなので「buzz wordで終わったのかな」と思って、amazon.co.jpで、出版年別のSCM関連の和書(タイトルにSCM、もしくは、サプライ・チェーン・マネージメントとある本)の出版数を調べてみました。
結果は以下のようになりました。

2006年 2冊
2005年 3冊
2004年 4冊
2003年 8冊
2002年 4冊
2001年 4冊
2000年 4冊
1999年 15冊
1998年 3冊

これをみると、SCMというフレームワーク(概念枠)が米国から導入されて騒ぎが起こり始めたのが1999年で、2003年頃までが各企業で実地検証・実装されていた時期のように見受けられます。
今年も既に2冊が上梓されていますが、概念枠としては、(製造業にとって)常識化したか、もしくは省みられなくなったかのいずれかのように思われますが、判断がつきかねるところです。

といいますのも、上の期間に「チャイナ・インパクト」があったため、製造業各社の目先がそちらに移ってしまった感があったからです。
(最近は、また、日本に回帰する動きを見せている企業もあるようですね)

SCMは、企業活動全体の改善のための概念枠ですが、(語弊を覚悟して言えば)「在庫削減のための考え方や理論立て」にフォーカスした論理ということができます。

久しぶりに「在庫」にまつわるお話を考えてみたいと思います。

まず、「在庫」というひとくくりでいっても、その性質は色々とある訳なのですが、大きく分けて
1.原材料の在庫
2.完成品の在庫
3.仕掛品の在庫(ライン在庫)
4.サービス在庫(完成品の修理依頼に対応するための在庫。製品のサービス年限に依存)
といったものがあります。

SCMの旗印のもとで、製造業各社は一生懸命に在庫削減に励んだわけですが、何でそんな活動をしたのでしょう。

この答えを一言でいうと、『在庫が多い(=在庫がはけるまでに時間がかかる)と、キャッシュフローが悪化する』からです。

決算書(財務諸表)に、「キャッシュフロー計算書」をつけることが義務づけられて久しいですが、グローバル標準としては随分前から、「損益計算書」や「バランスシート」といったものより、「キャッシュフロー」が重要視されていました。
損益計算書上で黒字であっても倒産する企業があります(黒字倒産)が、これは、キャッシュが底をついたからということが殆どです。
こういった「旧来の財務諸表では企業の健全さは計れない」といった認識から、海外を含めた機関投資家は、投資対象の「キャッシュフロー」を非常に重要視しています。
したがって、キャッシュフローを悪化させる「在庫」をできるだけ少なくすることは、金融市場で資金を調達する上でも重要なわけです。

また、在庫を抱えることで、ハイテク企業などでは、完成品の在庫が「あっという間に陳腐化し(つまり、次期モデルの投入によって売れなくなり)」、廃棄・滅却(特別損失)せざるをえない時代となりました。
滅却ということは、「投資家から借りたお金をドブに捨てる」ことを意味しますから、許されることではありません。
こういった背景の元で各社「在庫削減」に取り組んだ訳です。


ごちゃごちゃ書きましたが、「何で在庫削減が大切なのか」は、「自分で会社を起業する」ことを想定すると非常に良く実感できます。

たとえば、自分でパソコンの組み立て会社を作ろうと考えてみましょう。
(簡単のために、会社を登記したりといった、本質的でない事務手続きは省略します)

Dellコンピュータのまねをして、販路は直販のみと決めました。
手持ち資金は少しだけありますが、事務所を借りたり、道具を買ったり、「当初の出荷に備える分の完成品を作るため」にはお金がたりません。
そこで、事業計画を持って金融機関に融資を頼みに行きます。
(殆ど断られるにしても)運良く、ある金融機関から融資を得ることができました。当然、これは有利子の負債です。

ここから先は、時間の概念が重要になってきます。

お金が手にはいったことで、事務所を借りたり、道具を買ったりといったことをしますが、ここで注目しなければならないのは「当初の出荷に備える分の完成品を作るため」に材料を購入しなくてはならないということです。

出来たばかりの企業ですから、材料屋さんは信用取引ではなく、現金での取引を望むでしょう。
ですので、キャッシュで原材料を購入することになります。

すると、当然、「このキャッシュをいつ取り戻すか」ということが重要であることに気がつくはずです。

完成品を在庫したままにしておくと、いつまでもキャッシュが取り戻せません。
有利子負債ですから、銀行には、利息を納めないといけません。

翌月まで売れなかった場合、事務所の賃料と利息を納めることで、また、キャッシュがへり、在庫は残ったままです。

そうこうするうちに、パソコンが陳腐化して、売り物にならなくなります。
お金を払うだけ払って、キャッシュは1銭たりとも入ってこないのです。

もう、会社をたたむしかありません。

この簡単な例題からでも、いくつかの重要な教訓が得られるのですが(たとえば、「初期投資は小さく抑えなくてはならない」、「原材料は出来るだけ掛買いした方がよい」、「製品は掛売りしない方がよい」など)、「在庫」はあまりいいものではないことがお分かりいただけたのではないかと思います。