HWとネットワークの革新


前項では、「Webアプリケーション」の側面からクラウドコンピューティングの萌芽をみた。

技術的側面からみると、Ajax以上にクラウド・コンピューティング環境に影響を及ぼしたのが、HW・ネットワークの驚くべき速さでの革新、サーバー技術の発展と言える。

手元にある2009年6月発刊の「ITアーキテクト Vol.21」では、早稲田大学の丸山不二夫先生(元稚内北星学園大学学長。Java Pressに執筆されていた、RPC over XMLWebサービス)の分野の記事をいつも楽しみにしていた)の「クラウド時代への備え」という論考がある。
この中で、氏は(出典を明らかにしていないが)

1980年代からの4半世紀の間に
1.CPUのクロック数が1万倍以上向上した
2.メガバイトあたりの当たりのメモリの価格は3万分の1に低下した。(64bitのデュアル・クアッドコアを前提にしているようだ)
3.メガバイト当たりのハードディスクの価格は360万分の1に低下した。
4.ネットワーク速度が100万倍以上高速化された

と書いている。手元のPCを見れば明らかなように、これらの固有技術の驚異的なスピードでの革新は、そのまま一般ユーザーの恩恵となった

1980年代のSUNによる「Network is the computer.」というキャッチコピーが、今でも、頭に残っている。SUNはこれと同時期にネットワークコンピュータ(NC)というコンセプトも打ち出した。今でいうシン・クライアント(Thin Client)である。
SUNのコンセプトは今だに十二分に「新しい」のだが、当時、その実現を阻んだのが、遅いネットワークであった。

HW(PC、サーバー)とネットワークを比較すると、技術革新が早い時期からコンスタントに行われたのは、上記1−3のHWの分野であった。
高速化、大容量化するPCと、重たいネットワークという組み合わせから生まれたのが、クライアント・サーバー型の業務系システムであり、90年代に流行した。
このタイプのシステムでは、データベースを分散した拠点(利用箇所)に分散させ、遅いWAN内のトラフィックを最低限に抑えようという戦術がとられた。
そして、中央(データセンター)に必要なデータだけを、(夜間の帯域が空いている時間帯に)バッチ処理でギャザリングするという仕組みが基本的であった。
性能がアップしたクライアントの性能を利用して、アプリケーションの起動時にできるだけ多くのデータを(近くのサーバーから)取得し、メモリー上で処理を行い、サーバーとのトラフィックをできるだけ抑えるという戦術で開発されたシステムも多かった。

こういった背景にあっては、Sunの「Networs is The Computer.」(この時代に、現Google CEOのエリック・シュミット氏はSunに在籍していた)は、「新しすぎた」といえる。

数年前、YahooBBがブロードバンドルータを駅で配っていたのを記憶している人は多いと思う、アメリカではクリントン政権下で情報ハイウェイ構想が打ち出された。
今や、日本の家庭の多くに光ケーブルが敷設されてる。
会社では、基幹線、支線にGイーサーが利用されるようになった。
公共機関の多くで高速なWifiが利用でき、日本中の多くの場所でEMに代表されるデータ通信カードが使えるようになった。
こうして、ようやく、ネットワークの革新によって、アプリケーションに寄せられていた機能を、サーバーへ移行する準備が整った

SaaSで提供されるアプリは、高速なブラウザ(すなわち、高速なPCと大量のリクエストをさばくサーバー)と高速なネットワークがなければ成立しない。
現時点で、この環境のほとんどが整ったのである。
現在のクラウド・コンピューティングの流行の背景には、このようなHWとネットワークの革新があることを忘れてはいけないと思う。

先のログにgoogleChrome OSの話を書いたが、これは、満を持して登場したNCと言えなくもないと思う。(仕掛け人は同じエリック・シュミット氏である)